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第5章 厳しい財政状況と迷走する合併議論

1.6市町村の施政方針で示した「市町村合併」

 3月議会には首長から施政方針が示される。この時期各市町村長とも市町村合併に触れるのは当然だろう。
 平良市長は施政方針で「第1に、市町村合併論議の受け皿とその対応についてであります」と最初に切り出し「新年度は宮古の将来の方向性を決定する重要な年」「市民が判断できるよう十分な情報の提供を行う」と述べ、さらに「新市にも対応できる機構改革を進める」と踏み込んだ発言をしている。
 伊良部町長は「町の将来進むべき道は、町民が決定すべき極めて重要な課題であり」「最優先の政治課題として慎重かつ真剣に取り組む」としている。
 多良間村長は「市町村合併は国が強制するものではない」「合併の是非については住民の意思が明確に反映する住民投票が必要」「その結果を最大限に尊重し意思決定をしたい」と述べている。
 上野村長は「これまで各地域で合併説明会を開催し多様なご意見を拝聴した」「今後も住民に資料を提供するとともに更なる説明会等を開催して住民の意思が十分に反映されるよう最大の努力を行いたい」と述べている。
 下地町長は「合併するにしてもしないにしても財政面をはじめ、いろいろな面で問題は発生する」「今後とも町民に十分な情報の提供を行い」「町民の皆様がどう考えているかを把握し」「基本方向の判断をしたい」と述べている。
 城辺町長は、施政方針の「はじめに」のなかで「合併問題については必要な情報を随時提供するなど誠心誠意対応してまいります」とし、本編においては「7.市町村合併について」において「人口減少とそれに関連しての職員数削減」「急速な高齢化」「厳しい財政状況」さらには「宮古全域の生活圏の一体化」などを指摘し「総合的に考え併せれば」「(宮古)圏域全体で活性化を図ったほうが将来的によい」として合併すべきとの意思を明確にしている。

2.3月議会の合併論戦

 各市町村議会の3月定例会での合併論議はどうだったのか。
 上野村議会では複数の議員から「村長は合併の是非は決めているのか」「(村長は)合併の是非を意思表示してそれに向けて取り組んだ方がいいのでは」旨の質問がでたが、村長は「住民の皆さんに十分に判断材料を提供したい」「(その後)私自身は判断したい」旨述べた。
 下地町議会では住民投票の実施について質問が集中。町長は「6月定例会か臨時議会で(住民投票)条例を制定したいと考えている。住民投票によって住民の意思も分かる。やる必要がある」と答弁した。
 伊良部町議会では、合併による地域格差についての質問に「仮に合併するとしても地域格差がないような合併をしないといけない」と答弁。住民投票の必要性を訴えた質問には「住民に確かな情報を提供し、住民投票が必要と判断した場合は住民投票で決着したい」と述べた。
 城辺町議会でも市町村合併について質問が集中。これまで合併に前向きな考えを示している町長は、合併はあくまで住民投票を重視するかとの質問に「議会の皆さんの全会一致の議決があれば、住民投票は省いても良いのではと思っている」と述べ、これまで「合併の是非については最終的に住民投票」と強調してきた従来の姿勢を変更。ただ「住民に反対が多い場合は住民投票も必要になる場合もある」とも述べた。また、合併による地域格差を懸念する質問については「それほど心配することはないのではないか」との考えを示した。
 城辺町議会では野党議員からも「自治体の長がどういう気持ちを持っているかは重要なことだ。評価できる」と明確に合併は必要だとする町長の姿勢を評価する声が聞こえた。
 宮古6市町村は「8月までには合併の是非を判断する」との合意がある。
 このあと市町村合併の論議はどのように進むのだろうか。

3.各町村の財政推計

 市町村合併の議論に大きく影響を及ぼす市町村の財政事情。この時期、各町村では独自に財政推計を行っている。
 城辺町では次年度の2004年度から赤字決算となり2010年度では6億円以上の赤字になるとの厳しい財政推計が示されたことは先に触れた。
 他の自治体はどのような財政推計が出ているのか見てみよう。
 伊良部町では「合併しなかった場合」の2パターンを公表した。
 パターン1は現状のままで推移した場合である。10年後の2011年度には30億円の予算規模で18億円以上の赤字となることが示された。これでは財政破綻である。
 パターン2では職員数を半数近く、議員数を3分の2に削減して行政運営した場合であるが、それでも2011年度に約1億円の赤字となる。
 かなり厳しい財政推計となったが、担当課長は「合併してもしなくても行財政改革は急務。このシミュレーションをもとにわかりやすい資料を作成して住民に提示したい」とコメントしている。
 上野村では「1.いままでどおりの行政運営をした場合」と「2.行財政改革を断行した場合」の二通りの財政推計を行い、開催された上野村市町村合併問題研究会のなかで説明が行われた。
 これによると、いままでどおりの場合だと10年後約24億円の予算規模で12億円以上の赤字、人件費や物件費等を大胆に削減する行財政改革を断行した場合でも約1億5千万円程度の赤字となる結果となった。
 想像を超える厳しい財政推計の結果に、参加した委員の間からは「合併をしないといけないと脅迫されているように感じる」との声も聞かれた。
 下地町でも「合併しなかった場合」、伊良部町と同様に「1.現状のまま推移した場合」と「2.職員、議員を削減した場合」の2パターンを公表した。
 パターン1では2003年度から赤字となり12年後の2013年度では約2億5千万円の赤字と推計。パターン2でも約2400万円の赤字となる。
 その後開催された下地町市町村合併研究会では市町村合併に対し「財政難が緩和する」「人件費等、行政の効率化で財政が良くなる」と財政面では期待する一方「行政サービスが低下するのでは」「都市部と農村部の格差が広がり過疎化が進む」との不安を抱く声もあり、住民が葛藤する様子が窺える。
 これまで我が町、我が村の財政事情に無縁だった住民に突き付けられた悩ましい課題である。

4.第11回宮古地区市町村合併協議会

 第11回宮古地区市町村合併協議会は2003年3月26日、県宮古支庁で開催された。

 協議事項は①特別職の身分の取り扱い、②一般職の身分の取り扱い、③農林水産業関係の補助金の取り扱い、の3点である。
 「特別職の身分の取り扱い」については同規模自治体の報酬をもとに調整する。「一般職の身分の取り扱い」については、全職員を新市に引き継ぐ、職員の定数については合併までは各市町村で取り組むこととした。
 「農林水産業関係の補助金の取り扱い」は、農業が基幹産業である宮古においては住民の関心が最も高い協定項目の一つであり、そのなかでも市町村が単独で支出している補助金が注目された。
 単独補助金で最も大きいのは城辺町で約1億6百万円、ついで下地町の8千3百万円、最も小さいのは伊良部町の3千4百万円と市町村でばらつきがある。
 事務局ではこれを各市町村で、①今後10年間は継続する(Aランク)、②5年後以降廃止を検討(Bランク)、③5年以内に廃止(Cランク)、の3段階にランク付け。ただCランクでも従来の市町村が重要施策として実施しているものについては合併後「総合補助金制度」を新設することとし、それを幹事会で総合評価し協議会に提出していた。
 事務局からの説明後、数人の委員から質問があったが、大きな混乱はなく事務局提案の内容で了承された。
 協議終了後、市長村長からの質問内容が専門部会や幹事会で議論した内容であることが多々あることを問題視。一部の委員から「専門部会、幹事会のメンバーである職員は市長村長にちゃんと報告してから協議会に参加させるように」と苦言が呈された。
 各市町村の「報告」「連絡」「相談」(ホウレンソウ)の不徹底が露呈した形となった。

5.第12回宮古地区市町村合併協議会
 第12回宮古地区市町村合併協議会は2003年4月16日、平良市のマリンターミナル研修室で開催された。
 提案された協議事項、①「電算システム関係に関することについて」は「個人情報の充実を図る」との文言を追加する一部修正での承認。②「公営住宅に関することについて」、③「宮古の将来構想」は原案どおり承認された。
 「宮古の将来構想」は「将来構想に関する小委員会」がまとめたもので、合併を前提としたものではなく、宮古6市町村を一体的な地域として捉え、合併の是非を判断する材料とすることを目的とし、合併が是となればさらに住民とのコミュニケーションを図りながら、同案を踏まえて「新市建設計画」を策定する方針となっている。
 今回議論となった協議事項が④「国民健康保険(国保)制度の取り扱いに関すること」である。
 平良市と伊良部町の国保事業が多額の赤字を抱えており、その取扱いに議論が集中した。2002年度決算時点の赤字額は平良市が7億7千万余、伊良部町が9千8百万円余である。
 下地町長からは下地町の国保事業は健全に運営されていることを強調したうえで「(合併により)他の自治体の負の遺産が持ち込まれることは住民が納得しない。両自治体は赤字解消すべきだ」と強く迫った。これに対し事務局から「合併までの2年間で赤字を解消するのは無理」としたうえで「合併は譲り合いの精神が必要。赤字が大きい、小さいではなく譲り合いの心をもって取り組む必要がある」と述べ「幹事会でも現在の赤字額を減らす方向で確認した」と説明した。
 上野村長は「赤字を減らすなら数値目標を示して頂きたい」と述べ、同じく城辺町長も「赤字解消が無理なら、目標を数値で示して頂きたい」と要求した。
 これに対し平良市長は「税率と徴収率アップ、さらには一般会計からの繰り入れで赤字削減に取り組む」と述べ、伊良部町も「赤字解消を図るのは当然の務め」と述べたが、具体的な数値目標については触れなかった。
 結局、同案件については次回までに具体的な赤字削減の数値目標を設定し改めて提出することになった。
 そのほか、合併の是非の判断に関して、会長から「今年の7月までには合併に関する基本方向を確認し、協議を継続する場合、8月以降は「合併を前提として協議を進める」必要があると考えます。このことにつきましては、各委員は共通の認識として確認いただきたいと思います」と各市町村に念を押している。合併の判断の時期が近づいてきた。

6.宮古地区市町村合併協議会設置から1年を経て

 2003年4月、法定協議会が設置されて1年が経過したとして、当時の動きを地元紙が紙面で伝えている。一部抜粋する。
 -「法定の宮古地区市町村合併協議会は発足して1年が経過した」「今夏に予定されている各自治体の意思表示までカウントダウンに入った」「当初から推進の立場の平良市は姿勢をそのまま」「(3月議会で)城辺町長が推進を明言」「そのほかの自治体では明確な意思表示はなく総論賛成、各論反対の意識が強い」「合併協議会が示した宮古の各自治体の職員数、議員数などの数値では将来的に生き残るには行政のスリム化が絶対的に必要であることが示された」「平良市議は1人を除いてすべて合併推進を掲げて当選」「平良市の合併への流れは変わらない」「しかし、郡区の議員には合併は協議しないといけない課題としながらも本心では「合併拒否」の意識が見え隠れする」「これは役場職員も同じ①目の前に突き付けられた人員削減(将来的には宮古全体の約半数が削減)、②1つの自治体となることで他地域への転勤、などに難色を示す職員も多い。議員、職員が本心では難色を示している中で郡区の首長はほとんどイニシアチブをほとんどとることができないのが現状だ」
 「いま、宮古の6市町村で推進を前面に押し出しているのは平良市と城辺町。住民アンケートでは反対する意見が多かった伊良部町も前向きさは感じられる。一方で下地町、上野村は合併協議会で出てくる意見も消極的に感じられる。一番難しい位置にいる多良間村は苦慮しながらも状況を見守っている感じだ」「郡区の議会議員、自治体職員に根強い総論賛成、各論反対」「本質は合併に反対ではなく合併に伴う変化に反対する」「その変化とは自治体そのものを取り巻く環境ではなく、議員や職員個々人を取り巻く周辺環境の変化で、本当の障害はそこにあるように感じられる」「国保事業の累積赤字を抱える平良市と伊良部町に対して下地町、上野村は合併期限の2年後までに解消を強く求めた」「しかし2年間でそれを解消することは不可能。『累積赤字解消』が条件ならば両自治体は合併から離脱するということになる」-
 各市町村長、議員、職員の様子が窺える記事の内容である。今後の合併協議の行方を暗示するかのような指摘もある。意思表示を示す期限となっている7月まであとわずか。果たしてどのように進んでいくのか。まだ、先は見えない状況だ。

7.一島一町村を守る!!沖縄県離島総決起大会

 2003年4月22日、国の進める合併政策は離島地域の振興につながらないと疑問視して、一島一町村の県内14離島自治体が「一島一町村の自治を守る総決起大会」を開催。離島の町村長や議員、在沖郷友会会員など約500人が参加した。
 会場は、海域を超える市町村合併は地域(島)づくりに影響を与え、自治権が無くなり過疎化に拍車がかかるなどと危機感に包まれたという。
 決議では「市町村合併に全面的に反対するものではない。地方分権、財政危機の克服には必要と認識している」旨理解を示す一方「離島は特性を生かした独自の個性が評価されつつある。全国画一的な半ば強制的な合併は個性をなくすもので容認できない」と主張。国や県に対し①「住民の意思を尊重し、強制しない。(合併しなくても)自治を認める」②「離島市町村には地方交付税は一定水準の行政サービスを確保するうえで必要不可欠。確保する」を求めていくとした。
 基調講演で講師の愛知県立大学教授は「合併は地方が抱える課題解決の手法であり目的ではない」と強調。財政不安と地方分権を大義名分に合併を推進する手法を批判した。
 県議会離島振興議員連盟幹事長で宮古選出の県議会議員は「一島一町村の合併は難しい。今回のような場を数多く設けるよう議連としても取り組んでいく」とあいさつした。
 この大会には宮古から伊良部町と多良間村が参加した。
 多良間村長は地元紙に「今大会には村議や郷友が多く出席しており関心が高い。村全体で論議を深め村民の意見を尊重し結論を出すことになる」とコメントしている。
 大会決議は後日、14町村長と議会議長が県庁を訪れ要望書として提出された。
 応対した副知事は、政府に対して離島町村への配慮を求めていく考えを示したものの、「14町村については合併しない方針だということを県として出してほしい」との要望には「皆さんの気持ちはよくわかる」と述べるにとどまる。
 離島の合併は課題が山積している。それに寄り添わない国や県の強制的とも思える進め方に離島住民の怒りが爆発したということであろうか。

8.合併の是非が争点!!伊良部町長選挙

 4月27日投開票の伊良部町長選挙が22日告示された。
 「合併を進める」とする現職と「現状の合併には反対」とする新人が立候補を届け出た選挙戦は合併の是非を争点とした一騎打ちとなる。
 マスコミの取材に対し現職は「町民に合併のメリット、デメリットを説明し、慎重かつ真剣に検討する。合併する場合、しない場合のシミュレーションなどを示し住民アンケートもとる。6月の時点で町長として合併に対する態度、考えを明確に打ち出し住民の意見を求めていく」と述べた。 
 新人は「基本的に合併は自治権の放棄である。交付税におびえる脆弱な自治体を脅している。自立できれば問題ない。合併は財政運営のつけを市町村に要領よく振り替えている。国や県に対しても筋道を立てるやりあうべきである」と厳しく国、県を批判した。
 激しい選挙戦の結果、現職が3選を果たす。
 当選から一夜明け、今選挙で最大に争点となった市町村合併問題について、地元紙の取材に対し「避けて通れない問題。なぜこの時期に合併の話が出たかと言う理由を町民に伝えていかなければならない。自立できるような合併が必要。合併協議会でもこれから本音をぶつけていく。個人的には合併をしなければならないと思っている。町民も腹を決めて判断しないといけない」と述べ「最終的な是非は住民の判断」と強調し、合併推進を明言した形となった。
 ところで、合併に関する基本方向を確認する期限とされた7月が近づくなか、各地域の住民説明会を終了した上野村は、村長が近々合併の是非について意思表示する考えであることを示した。上野村の意思表示が今後の6市町村の合併論議にどう影響するのか注目される。

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