>

第4章 温度差が表面化する合併議論

1.町村部で表面化する合併への不安・不満

 平成14年12月、東京で開催された「全国町村会」は「強制するな 町村合併」のスローガン入りの帽子をかぶった人で埋まった。大会では「(国の進める合併は)小規模町村の切り捨てだ」「農山村を破壊する凶器になる」などの批判が出て町村のいら立ちが噴出し「強制合併や小規模町村の権限縮小反対」などを盛り込んだ緊急決議が採択される。
 宮古では町村議会議員を中心に「市町村合併研修会及び意見交換会」が開催され、基調講演として県の市町村合併担当局長は「地方交付税は削減されていく」と強調し「小規模町村が環境、ごみ処理、福祉などフルセットの仕事をできる時代はもう絶対こない」「効率性の高い行政を目指すため合併が望ましい」と話した。これを受けた議員間の意見交換では「合併すると農村部の過疎化が進まないか」などの不安の声に加え「合併を押し付ける国の政策は腹立たしい」「国や県は不安ばかり煽っている。地方の特色、伝統文化、ロマンという話がない」など不満も相次ぐ。
 下地町与那覇で開催された住民説明会。住民からは不安の声が出る「合併で市街地と地方に格差が出るのではないか」
 合併協議会委員は合併先進地として兵庫県篠山市を視察する。視察後、ある町村代表の協議会委員は「広域的課題が実現したことはよいが、支所となった旧役場を見ると職員が少なくなっており寂しさを感じた」との感想を述べている。
 宮古地区市町村合併協議会では宮古圏域住民を対象に市町村合併に関するアンケートを実施した。それによると合併の是非について平良市では「望ましい」が「望ましくない」を大きく上回ったが、他の5市町村では「望ましくない」が多くなり、市部と町村部では全く逆の結果となった。
 反対意見としては「市街地とその周辺部では行政サービスで格差が出る」「公共料金が高くなり住民負担増になる」などが出ている。
 合併に対する市部と町村部での温度差が浮き彫りになってきた。

2.市町村議会12月定例会

 12月中旬、翌年度の地方交付税の総額が14年度に比べ5%を超えた削減となり、減少率が当初予算ベースで過去最大となる見通しとなったことが報道される。合併しない小規模町村の権限縮小案(地方制度調査会の西尾勝副会長が私案として示した案で「西尾私案」と呼ばれた)に加え小規模町村には厳しい政府の姿勢が浮き彫りになる。
 こうした中で宮古の市町村議会は12月定例会を迎える。
 伊良部町議会の一般質問は市町村合併問題に質問が集中。「県は『合併しないといけない』としているが、これは県の締め付け、圧力だ。現在の合併協議や住民説明会は合併ありきで進んでいる」などの厳しい質問が相次いだ。町長は「合併についての結論は早めに出すべきではない。合併問題では悔いのない判断を」と答弁している。
 下地町議会では、合併期日案が示されていることを踏まえ「合併の是非が決まらないのに期日を決めるのは矛盾。住民の意思を確かめる必要があるのでは」との質問に、町長は「住民の意思把握には住民投票が確実と思うので視野に入れて検討したい」「今結論を出すのはまだ早い」と答弁している。
 城辺町議会では町長が「住民への説明を十分に行ったうえで住民投票を実施したい」と住民投票の実施に前向きな答弁をしている。
 多良間村役場でも市町村合併に質問が集中。合併協議会での協議の進捗状況や村の考え方を質した。「住民説明会が1回しか開かれていない。民意を集約する場として合併研究会を設置する考えはないか」との質問に村長は「村として独自の研究会や協議会を立ち上げる。住民の意見を十分に聞き取り組みたい」と答弁した。
 上野村議会では、合併しない小規模町村の権限を大幅に縮小するとの「西尾私案」についての質問に対し村長は「合併しないところを強制的に締め上げようとすることは非常に遺憾」と不快感を示し「政府による強制には反対。西尾私案には不満を感じる」と反発した。
 この「西尾私案」については城辺町、上野村、多良間村の3町村議会が反対する意見書を全会一致で採択した。城辺町議会議長は「自治権を取り上げ、小規模町村をつぶそうとする試案には反対」と強調。上野村議会議長も「小さな町村いじめのような私案。議会として反対していく」と述べた。
 町村部に不満が広がるなか「合併の期日」、「新市の名称」を議題とする第8回合併協議会を迎える。

3.第8回宮古地区市町村合併協議会

 第8回宮古地区市町村合併協議会は12月25日平良港マリンターミナルビル2階研修室で開催された。
 冒頭、「将来構想に関する小委員会委員」が決定したことが報告された。各市町村からの推薦で平良市から与那嶺誓男さん・平良和枝さん、城辺町から下地明さん・下地一美さん、下地町から保良榮男さん・池間健栄さん、上野村から平良隆さん・砂川栄市さん、伊良部町から池間作一さん・佐久本洋介さん、多良間村から上地玄純さん・兼本勝正さん、会長推薦で松堂哲男さん、女性委員会推薦で新里玲子さん。以上が委員である。
 続いて協議事項が事務局から提案される。
 最初に「合併の期日」について「平成16年10月1日」「平成17年1月1日」「平成17年3月31日」3つが提案される。
 議長から意見を求められると早速城辺町の委員が「住民説明会の参加者が少なく、住民への説明が十分とは言えない。だから、合併の期日を決めるのは時期尚早である」と反対意見を述べる、続いて下地町の委員からも「住民は合併に賛成・反対の判断はまだ出していない。いま合併の期日を決めたら住民は合併が決まったと思ってしまう」との意見が出る。伊良部町長や平良市の委員からは「合併の期日を決めてから合併協議会も前に進むべき」「合併の期日を決めておかないと合併協議会どういう進めたらわからない」などと賛成意見が出るが、上野村長から「合併の期日を決めることで住民は納得しますか。協議会は合併ありきで決めているのではないかと言われる」との発言が出る。結局、別の委員から「期日を決めるのにこんなに時間がかかるのか。議論が混乱している。協議の進め方を検討する必要があるのではないか」との意見が出て、「合併の期日」は継続審議となった。
 続いて「新市の名称」について「公募する」「小委員会を立ち上げ議論する」「直接協議会で決定」の3つの案が提案されたが、これにも様々な意見が出て収集がつかなくなる。ある委員が「目標もなくただ協定項目だけを継続審議、継続審議では期日がなくなる。もう少し提案の内容を認識すべきではないか」と不満の声を上げたが、結局「新市の名称」についても継続審議となる。
 市町村合併の議論が各論になっていくなかで少しずつ地域の本音が表面化してくる。

4.2003年の幕開け

 地元新聞の「2003年新年特集号」は合併一色だったといっても過言ではない。
 「市町村合併、最重要局面へ」「合併期限は05年3月」「問われる首長、議員、住民の姿勢」「リーダーの責任果たせ」「基本方向、今夏までに決断」などの大見出しが書面を飾り、合併についての記事に多くを割いた。
 これまでの合併協議会での議論を振り返り「財政推計で明暗」との見出しで「『合併する=210億円の黒字』『合併しない=150億円の赤字』」との内容の記事や「推計で見る人口推移」との見出しで「高齢化率29.6%に、子ども25.9%減少」などの情報提供する記事もある。
 なかには「『みやこ市』誕生“是非”を問う」とまだ決まってもいない新市の名称を付した見出しまであった。
 また、宮古で「市町村合併講演会」で講演を行ったことのある関西学院大学の小西砂千夫教授の特別寄稿を見開きで掲載、「全国で市町村合併の議論が混乱を引き起こしている」「良い合併と悪い合併とは」「政治的判断と国の省益とは」など幅広い視点で提言がなされている。
 琉球大学教授と沖縄国際大学教授のインタビュー記事や合併協議会事務局長の論壇記事、合併先進地と言われる兵庫県篠山市の合併特例債活用の特集記事などが紹介記事など市町村合併関連の特集は多岐にわたった。
 そのなかで注目された合併関連記事がある。「市町村合併議論大詰めへ」「8月にも基本方向」との大見出しで、2015年1月に合併することになっている合併協議会のスケジュール案が掲載された記事である。
 合併協議会では合併の期日について議論することに反発が出ている時期だ。
 そんななかで、まるで市町村合併が決まり合併の期日までも決まったかのようなスケジュール案が掲載されたことにさらなる反発が予想された。

5.第9回宮古地区市町村合併協議会

 2003年の各市町村の仕事始めは通常の4日が土曜日に当たるため、6日からとなった。その仕事始めの6市町村長の年頭訓示では、すべての首長が市町村合併について触れている。また、各市町村開催の新春の集いにおいても合併の積極派、慎重派それぞれが挨拶の中で市町村合併について述べている。
 1月8日、伊良部町では町長選挙を4月に控え現職と新人が出馬表明を行う。現職は「合併は町民にきちんと説明したうえで慎重に進めたい」としたが、新人は「市町村合併には反対」と真っ向から対立する。
 1月23日、第9回宮古地区市町村合併協議会が県宮古支庁2階講堂で開催される。
 はじめに、協議会での協定項目について「決定」という表現をしてきたが、決定するのはあくまでも市町村議会であるとの指摘が出ている事、また「決定」と言う表現が住民に合併が決定したと誤解されるとの意見があったこと、などから今後は「確認」という表現で統一するとした。
 継続審議となっていた「合併の期日」については「早めに確認すべき」との意見が多くの委員からでたものの一部の委員から「(合併協議会が行った)アンケート調査では60%の住民が合併について知らないと答えている。合併の期日は時期尚早」「合併期限そのものに疑問がある。限られた期限ですべてを決めるのは無理がある。時限立法の期限を延ばすよう要請すべきだ。合併すると周辺部と都市部の格差ができる。その格差をなくすために時間をかけるべきだ」との反対意見が出る。ある委員からは「自分の地域でまとまっての行政が良いとは思うが今の政府のアメとムチの政策に対抗できない。首長に聞きたいが自主財源15%の現状で(今後)どうやって行政運営をするのか。合併の期限までに自分たちがどのように生き延びるかを議論すべきだ」との意見も出たが、議長が「多数決による確認は望ましくない」として再度結論を持ち越すことにした。
 もう一つの継続審議となっていた「新市の名称」については「名称の確認方法を含め小委員会を設置して協議する」と確認された。
 ところで、この日の協議会から地元のケーブルテレビ局「宮古テレビ」が、協議会の模様をすべて録画し、午後8時前後のゴールデンタイムに放送することになる。合併協議会の内容がテレビ放送されるのは全国的にも珍しく画期的なことだ。
 委員の一人である情報公開に詳しい大学教授は「審議過程が直接住民に伝わり、関心や議論が深まり意義がある」としたうえで「明確に意思を示さない委員は戸惑うことになる」とも指摘した。

6.県内における市町村合併の動き

 ところで、この時期の県内における市町村合併の動きはどうだったのか。
 お隣の八重山では、石垣市、竹富町、与那国町の3市町の枠組みでの合併検討に合意していたが、前年暮れに竹富町長が合併への不参加を表明したことでその枠組みが崩れ、石垣市と与那国町で任意協議会を設立していた。
 町長の不参加表明を受けて竹富町の小浜島の住民が合併特例法で定める法定合併協議会設置を求める署名の準備に入る。さらに黒島公民館の役員が町長を訪れ合併協議会に参加するよう要請する。しかし、その後の第2回八重山地域合併協議会で意見聴取のため招致された竹富町長は「海を越えた合併には無理がある」と重ねて不参加を表明する。
 そうした中で、署名活動をしていた小浜島の住民から請求に必要な有権者の50分の1(60人)を大幅に上回る1,142人(38%)の署名が2月19日に提出している。
 沖縄本島の動きはどうだろうか。
 本島中部に位置する、具志川市と勝連町と与那城町はすでに任意協議会を設置していて1月中旬に開催された第3回の協議会で1月中に法定協議会設置を議会で協議することを確認。1月24日に勝連町、与那城町で臨時議会が開催され全会一致で可決。翌25日には具志川市で賛成多数で可決され法定協議会設置が決まった。 
 第1回合併協議会は2月12日に開催され52項目の合意形成に向けてスタートしている。
 宜野湾市、西原町、中城村の3市町村は1月14日任意の合併協議会を発足し6月までに一定の方向性を出していくことにしている。
 沖縄市は石川市と北中城村に対し、直接助役が2市村に出向き合併を打診している。
 1月16日、那覇市を中心とした「那覇地区市町村合併研究会」が開催される。研究会は那覇市、南風原町、渡嘉敷村、座間味村、渡名喜村、粟国村、南北大東村の8市町村で構成されており、任意合併協議会設置に向けて早急に結論を出すことが確認され、2月5日に8市町村による「那覇市・南風原町・南部離島村合併任意協議会」が発足した。
 石川市は具志川市、勝連町、与那城町との合併案を示していたが、前年の10月に市長が変わり、恩納村、金武町、宜野座村、沖縄市との合併も含めて検討すると表明。直接、恩納村、金武町、宜野座村に合併を打診している。
 平成15年1月末現在、県の調査によると県内52市町村のうち33市町村が法定若しくは任意の合併協議会に参加している状況である。

7. 新年度予算と合併特例法の改正

 2月から3月にかけては各市町村の新年度予算内示が出そろう。各市町村とも市町村合併の引き金ともいわれている地方交付税の動向が気になるところである。
 2月7日に平良市の予算内示が発表された。地方交付税は前年度比約4億円7.3%の減である。続いて下地町の予算が内示が発表され地方交付税は前年度比で1億1千万円7.3%の減、同じく上野村は1億3千万円8.9%の減、伊良部町は1億3千万円6.0%の減、城辺町2億2百万円7.8%の減、多良間村は7千万円7.7%の減と宮古の6市町村は軒並み6~9%の減と厳しい現実を突きつけられた。
 同時期に城辺町は独自に沖縄県の担当副参事を招いて職員研修会を開催。市町村合併の背景や効果、課題などについて学んでいる。その中では係長以上の職員による勉強会を開催して作成した財政推計や市町合併の「Q&A」形式の資料が配布されたが、それによると城辺町では2004年度から赤字決算となり2010年度では6億円以上の赤字になるとの厳しい財政推計が示されている。
 2月9日の地元紙に「総務大臣は、和歌山県で開催された講演会で、2005年3月に期限切れとなる市町村合併特例法について『(合併の)意思決定はできて、手続きだけが残る市町村については優遇の対象とすることを検討したい』と述べた」との記事が掲載された。合併特例法の期限を念頭に作業を進める合併事務局は色めき立った。特に宮古地区の場合「合併の期日」が継続審議中であった事もありなおさらだった。「地方での講演会で述べただけのことで正式決定ではない」とも考えられたが、全国紙で「総務省も同様の見解を示している」と掲載されている。
 合併に危機感を抱く町村の不安を懸念し「連合自治体」制度の創設を提言する動きや、全国町村会、全国町村議長会が東京都で「町村自治確立総決起大会」を開催し強制合併に絶対反対との動きをマスコミが大きく報じている時期である。
 合併協議会を19日に控え、総務大臣の発言がどのように影響するか見通せない状況のなか18日の県紙が次のように報道した。「総務大臣は17日の衆議院予算委員会で『2005年3月までに合併が終了しないと優遇措置を受けられないが、合併の意思決定は確定し、手続きだけが残る場合には優遇検討が受けられるよう考えたい』と述べ、合併特例法を改正し、期限内に合併が間に合わない市町村にも優遇措置を講じる考えを示した」
 次の合併協議会はどうなるのか。検討もつかない。

8.第10回宮古地区市町村合併協議会

 第10回宮古地区市町村合併協議会は2003年2月19日、下地町農村環境改善センターで開催された。
 事務局から報告事項が説明された後、監査委員の同意案が提案され全会一致で同意された。
 続いて協定項目が提案される。
 提案第1号「地方税に関することについて」提案第2号「納税に関することについて」の2つが合併協議会事務局の総務部会から説明される。
 続いて質疑応答が行われ数人の委員からの質問後、2つの提案は全会一致で確認された。
 いよいよ継続審議となっている「合併の期日」が議題となる。
 まず、上野村から「市町村合併の期日決定に対する意見書」が提出されており、事務局が読み上げる。意見要旨は次のとおりだ
 「村内で住民説明会を開催しているが、多くの住民と議会から合併しない場合のシミュレーションを求められている。住民、議会の要望に応えるため村市町村合併問題研究会で合併しない場合の諸事項のシミュレーション作りを進めている。諸事項を確認の上、再度住民へ説明し理解を求め合併問題を円滑に進めたい。いま合併の期日を協議すれば今後の住民説明会で十分な理解を得難くなる。合併の是非が問われている夏ごろまで保留していただきたい」
 また上野村長は「総務大臣が、『合併の期限に間に合わなくても合併の方針を決めていれば優遇措置を講ずる』との見解を示している」とも述べ先送りを求めた。
 委員からは「住民に十分な説明が行き届いていない今の段階では賛成」「急ぐ必要はない。地域とじっくり話し合い時間をかけて協議すべき」などと先送りに同調する意見がある一方「あくまでも決めるのは仮の期日。目標を決めて進めるべき」「各首長は早めに決断すべき。作業はできるだけ速やかに進めるべき」と先送りすべきではないとの意見が出る。
 また「総務大臣が示した『合併の方針が決まっている』とは期日もすべて決まっているということ。久米島の例をあげると予定の合併の期日より1年遅れた。夏ごろまで先送りすることに異論はないが、そういうことも考える必要もある」「合併協議会を設置したのは首長さん達が対等合併を前提にして合併が適当かどうか大いに議論してその方向性を出したいとこういうこと。早め早めに決めた方がいいとは思うが、時間をかけて検討する必要がある事項もある」と双方に理解を示す意見も出た。
 結局、賛否双方の意見を会長が引き取り「合併の期日」については8月ごろを目途に議論を先送りすることとなる。
 折しも、同時期に洲鎌良平氏の著書「市町村合併論争 だれのための合併か」の出版祝賀会が開催されている。

コメント