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第6章 苦悩する多良間村と3町村合併の提案

1.苦悩する多良間村。

 「国の進める合併政策は離島地域の振興につながらない」と疑問視して開催された沖縄県離島総決起大会に宮古から伊良部町とともに出席し「(村民は市町村合併に)関心が高い。村全体で論議を深め村民の意見を尊重し結論を出したい」とコメントしていた多良間村は5月上旬、沖縄国際大学教授を講師に離島村の合併問題について講演会を開催する。
 講演では離島村の合併問題に対する不安などの事例を紹介。自主的な判断に向けて①住民への徹底した情報公開と情報の共有化、②意思形成を図るための住民投票について説明し、今後合併する、しないのどちらを選択しても多くの課題があることを挙げた。質疑では合併した場合の住民の負担がどうなるのかと言った不安の声が住民から出た。
 5月中旬には村内各集落において「市町村合併地域説明会」を開催。合併した場合のメリット、デメリット、合併しない場合の財政シミュレーションについて説明した。財政シミュレーションについては現状維持の場合と財政改革を進める3パターンを作成し説明。地方交付税が減額されていく中においていずれも赤字決算となり、合併しない場合、非常に厳しい財政の見通しが示される。 
 ただ、多良間村は平成15年現在、宮古6市町村で構成する「宮古広域圏事務組合」に参加して分担金を支出しているが、宮古本島から遠く離れている多良間村にメリットはあるのかと言った不満の声が村民のなかにあるのも事実である。
 「財政問題だけでメリットの見えない合併をしないといけないのか」という村民の不満の声を代弁するように村長は「多良間は6市町村の中でも遠く離れており特異性がある。住民たちの意見も変わってくると思う。一番苦しい選択をするのでは」とコメントし、合併の是非について厳しい見解を示す。
 宮古本島から70kmも離れた多良間村。合併は是か非か。住民の苦悩が深まる。

2.上野村長、3町村での合併方針を発表

 5月に入り、近々合併の是非について意思表示する考えを示していた上野村長は、5月16日に「市町村合併問題に対する基本的な考え方(方針)」を発表し、合併の是非については「合併を推進」することを明言する一方、合併の枠組みについて「上野村、城辺町、下地町の3町村とする」とし、これまで6市町村合併を前提に合併協議を進めてきた関係者の間で衝撃が走る。
 方針ではまず「村では財政推計を作成し1巡目の住民説明会で説明。農林関係の単独補助金については2巡目の説明会で説明。(合併については)ある程度理解は得られたと思う」として、合併しなければ「財政的に自立できない」「行政サービスの維持が困難」であり、合併すれば「合併時の交付税が保証される」「合併特例債が適用される」との理由で「合併を推進する」とした。
 合併の枠組みについて「上野村、城辺町、下地町の3町村とする」とすることについては、「3町村とも健全な財政運営をして」おり「農業を主体とした農村地域」であり「合併することで過疎化に歯止めが図られる」。「それぞれにチャンピオンコースのゴルフ場とリゾート施設を有し観光産業を強力に推進できる」として、「宮古圏域に複数の自治体が存在することにより切磋琢磨し経済活動の活性化、住民サービスの向上が図れる(競争のないところに発展はない)」「人口1万人以上の自治体が誕生。政府が進める小規模自治体の業務縮小が回避される」。また「この3町村合併案は、沖縄県市町村合併推進要綱のなかで試案として明記されており、理由として、①より一体性のある地域の合併パターン、②日常生活圏や共通課題の解決、③コミュニティ形成を重視、となっている」との考えを示した。
 6市町村で法定合併協議会を設置し議論を進めている最中にいきなり示された上野村、城辺町、下地町の3町村での枠組み。城辺町と下地町の考え方はどうなのか。法定合併協議会はどうなるのか。合併のタイムリミットが迫る中、波紋が広がるのは必至である。

3.どうなる。3町村での合併方針
 上野村長が、合併の枠組みについて「上野村、城辺町、下地町の3町村とする」との方針を表明したことを受け、下地町長は「川田村長が農村地域として発展するためには3町村が合併した方が良いと示したことは理解できる」として、下地町が予定している住民アンケート調査で6市町村の合併是非に加え、3町村枠組みを質問項目に盛り込む意向を明らかにした。また、城辺町長は「上野村長から説明があったが、城辺町は6市町村での合併を前提にしてきた。議員や住民の意見を聞いたうえで今後検討したい」と述べるにとどめた。
 伊良部町長は「3町村で合併するメリットが見えない」と戸惑い気味。平良市長も「市町村合併は6市町村でやるからスケールメリットがある。3町村での合併にどういう意味があるのか」と困惑するが、一方で「さまざまな提案は良いこと。合併協議会で正式に聞いてから議論する必要がある」と話した。
 上野村長は「あくまでも個人的な考えであり、16日から実施している住民アンケートの結果を踏まえて判断したい」とも説明する。
 上野村長の方針表明の後初めて各市町村の助役や総務課長で構成する法定協議会の幹事会が開催された。法定協は合併した場合の新市のあり方について44の協定項目を定め議論している。幹事会は法定協の議論する議題を提案するが「今回予定していた「新庁舎の建設位置」「福祉制度の取り扱い」「国民健康保険制度の取り扱い」は上野村長の発言の影響もあり、意見がまとまらず、いずれも先送りとなった。
 法定協では各市町村長が合併の是非を表明する期限の8月が大きなヤマ場になるとみられていたが、それを前に「6市町村での合併か、3町村での合併か」という新たな枠組みをめぐり新たな議論が生じた。
 各市町村長や議員、学識経験者らが出席する法定協議会が注目される。

4.第13回宮古地区市町村合併協議会
 2003年5月21日、第13回宮古地区市町村合併協議会が沖縄県宮古支庁2階講堂で開催され、上野村長が表明している「上野村、城辺町、下地町の3町村合併案」をめぐり激しい議論が展開される。
 冒頭、上野村長は「国会では与野党問わず市町村合併を推進している。また地方交付税も減額される方向で動いており、市町村合併は必要と認識している。しかし、合併の枠組みはまだ選択の余地があると考え、農村地域という共通点を持った3町村での合併が最良と考えた。住民の抵抗も少ないと思い私の基本的な考えとして住民に示した。住民の反応は(今後の住民アンケートで)出てくるので、その意見を集約し村としての方針を考えたい」との考えを示した。
 この意見に対し、合併を持ち掛けられている下地町長は「住民のなかには上野村長と同様の声もあるが、6市町村合併を望む声もある。今後のアンケートに(3町村合併も)盛り込み住民の声を聴きたい」と述べ、また多良間村長も「地域性が似ているので上野村長の意見は評価できる。住民と意見交換したうえで意向調査を実施する」と慎重な姿勢を示した。
 一方で伊良部町長は「今の時点で視点を変えるべきではない。3町村の人口は1万人弱で、将来的に国の財政支援を受けられるのか疑問。合併問題がなぜ今出ているのかを考えよう。ただ合併すればいいというものではない」、平良市長は「3町村でということになると別の協議会を立ち上げることになる。(現協議会を)分散しないように協議を進めるべき」と3町村に否定的な意見を述べた。
 ほかの委員からも「スケールメリットは大事。宮古は一つになったほうがいろいろな面で期待できる」、「合併は農業だけではない。6市町村合併が望ましいと思う」、「次世代の農業を考えれば、もっとグローバルに考え、6市町村一体となって足腰を強くできないか」など3町村合併を否定する意見が相次いだ。
 さらに現段階で3町村合併を示した上野村長に対して「考えは個人的には理解できるが時期的に遅い。最初(の議論)に戻ることになる。この法定協議会は議会で議論して設置した。合併協議会が混乱する」「その意見は合併協議会を立ち上げる前に出すべきだった。協議会がスタートして1年が過ぎており、今から新たに3町村合併のシミュレーションを作り国の合併期限に間に合うのか。また人口が1万人に達すればいいというアリバイづくりのような考えには賛成できない」と厳しい見解を示して批判する委員の意見もあった。
 結局、協議会会長が「上野村長の意見も共有しながらもっと議論していこう」とまとめたが、上野村長は「3町村長で協議し、アンケートで住民の意見を聴き結論を出したい」と話しており、もし3町村合併の方向で進むようだと現在の合併協議はどうなるのか。
 6市町村の合併協議会が空中分解する可能性が出てきた。

5.多良間村で合併問題意見交換会を開催
 村内各集落において「市町村合併地域説明会」を行った多良間村では、5月下旬に村中央公民館で「宮古地区市町村合併問題意見交換会」を開催され約100人の村民が参加した。
 住民から合併に対する考えを明確にするよう求められた村長は「いま表明すれば住民の気持ちが揺らいでしまい本意が伝わらなくなる。いまは言えない」と慎重な姿勢を示した。上野村長が表明した「城辺、下地、上野」の3町村での合併案については「ともに農村地域なのである面では評価できるが時期的に遅かった」と述べた。また、住民説明会での財政推計について「赤字にならないシミュレーションはできないのか」との質問には「人件費や物件費などの大幅な減、住民税の増なら可能ではないか。ただ、村民が我慢しなければならないことがでてくる」と答えた。
 住民からは「資料では合併した場合のデメリットばかり強調されているように感じる。合併しなかった場合のメリット、デメリットが示されていない」と指摘する声があったほか、「多良間は自主財源が乏しいので合併しないとやっていけないのでは」と合併を推進する声も上がったが、「海域を隔てた多良間村の場合は合併してもメリットが少ないのではないか。村の独自性、特質を生かして存続する方向が良い」と合併すべきでないとの意見に多くの住民が賛同した。
 沖縄本島で開催された一島一町村の自治を守る沖縄県離島総決起大会に参加したという住民は「多良間は自治権を持つべきだと思った。牛後となるより鶏頭となるべきだ」との意見を述べた。
 多良間村は、アンケートで住民の意向を調査し、合併について賛成・反対を聴いた結果で8割以上がどちらかであれば議会に諮って決定し、賛否が拮抗した場合には6月定例会に住民投票条例案を提出する方針を示している。
 合併の是非を表明する期限が迫る中、多良間村民の選択が注目される。

6.下地町、上野村の住民アンケート結果
 6月に入り、下地町での住民アンケート結果が公表される。
 それによると「合併すべき」と答えたのは全体の51%を占める417人で「合併すべきではない」と答えたのは205人で25%を占める結果となった。
 「合併すべき」のうち「6市町村合併」は170人、「下地町、上野村、城辺町の3町村合併は229人となり、3町村合併支持が多いことがわかった。
 下地町長は「住民アンケートの結果を尊重したい」と述べてはいるが、上野村長が提案した3町村合併」については「6市町村で協議した方が良い」として宮古地区市町村合併協議会での協議を重視している。今後の判断が注目される。
 下地町に続いて上野村でもアンケート結果が公表された。
 上野村の市町村合併に関する住民アンケート結果は「合併すべき」が63.5%で「合併すべきではない」の13.2%を大きく上回った。
 また、合併の枠組みに関しては「6市町村」が32.1%だったのに対し「3町村」が倍以上の67.9%となり、村長の意思表示に多くの村民が賛同する形となった。
 この結果を受けて上野村長は「今後も3町村の姿勢は崩さず城辺町、下地町と意見交換をしながら枠組みについて模索したい」とコメントしている。
 しかし同日に下地町長は「3町村合併については城辺町が難色を示しており、現段階ではあり得ないので、6市町村での合併協議を進めたい」と表明。さらに城辺町長も「私の6市町村での合併推進との意見に住民からも議会からも異論は出ていない」と明言しており、3町村での合併協議は困難なようである。

7.多良間村の住民アンケート
 多良間村でも住民説明会の出席者、村議会議員、各団体の会長など281人を対象に市町村合併に関する住民アンケートを実施。「合併に反対」が56.4%と「合併に賛成」の37.4%を上回り、村長は「住民の意向が反映されていると思う。主権者は村民であり、その意思に村長が反対とは言えない」とコメントした。
 このコメントに対し、村民から「住民アンケートに疑問」とした投稿が新聞に掲載される。
 「有権者の半数を対象に意向調査を行うとしていたが対象者が少ない」「対象者は行政役職を担っている人たちが殆ど」「説明会が『合併をしない』という内容の説明会であった」などと主張し全住民を対象とした意向調査を行うよう要求する内容である。
 また、このアンケートの結果を踏まえて開催された村長と村議会の会合においても議会側から「対象者が少なく判断が困難。全有権者を対象に再度実施してほしい」旨の要請があり、結局、約1000人の全有権者を対象として再度アンケートが実施されることになる。
 一週間後には再度「市町村合併説明会」が実施されるが、翌日の村議会の一般質問では「合併をしない方向での説明会ではないか、との指摘がある」など厳しい質問が集中する。
 そしてその後、全有権者を対象にアンケート調査が実施される。結果は全有権者996人のうち633人が回答。即日集計され「合併反対」が368人で58.1%となり、「合併賛成」の2645人41.7%を上回り、前回のアンケート調査とほぼ同じ結果となった。
 村長は「重要な問題で(賛否は)今どちらともいえない。結果は最終的に決議する村議会に報告したい」旨のコメントを出した。
 その2日後、合併に関する情報を住民により多く提供することなどに取り組むとして「多良間の未来を考える会」が村議や元村議らを中心として発足する。
 また、村長が職員に対して「合併に賛成したら異動対象になる」と発言したとの新聞報道があり村長が釈明に追われるという動きも出るなど対立が先鋭化してきた。
 宮古島から70㎞離れ、合併のメリットがなかなか見いだせないなか政治的思惑も絡んで混迷を深める多良間村。村民の不安は募るばかりだ。

8.6月議会での市町村合併議論
 上野村長が、上野村・城辺町・下地町の3町村枠組みでの合併を打ち出し、さらには多良間村では「合併に反対」が過半数を超えるなど合併議論が混迷を深めるなかで迎える6月議会。各市町村の議会の議論はどうであろうか。
 平良市議会では平良市が行っている市町村合併アンケートに対する質問があり、「いま用紙を回収中での中間報告であるが7割が6市町村での合併を望んでいる」と答弁。この結果を踏まえて市長は「今後も6市町村での合併を積極的に推進していく」と強調した。
 伊良部町議会では議員から「首長と議会の意思をはっきりと示すべき。早急に町長の意思を示してほしい」と求められた町長が「今後行われる住民アンケートの結果を見て町民の意向を踏まえて私の見解を示したい」と合併の是非については明言を避け慎重姿勢を見せた。
 城辺町議会の市町村合併調査特別委員会は市町村合併について合併推進の立場を強調したうえで「広域的合併が望ましい」として「6市町村による合併」を推進する方向性を示した報告書をまとめ最終本会議に提出した。
 また城辺町長は「(町民の中から)あまり反対の声もあがらないので住民アンケートは必要ないと考えている」と明言した。
 下地町議会では、住民アンケートの質問項目に3町村枠組みを加えたことから3町村での合併に質問が集中。町長は「城辺町と同町議会が6市町村合併を推進している以上3町村はあり得ない。3町村では自主財源が乏しい。推進するなら6市町村での合併」と明言した。
 上野村議会では城辺町や下地町の動向を踏まえて多くの議員が「村長が提案した3町村合併は事実上不可能ではないか」と質した。それに対し村長は「住民アンケートで明確になった民意(3町村での合併推進)を重要視し、現段階では3町村合併を推進したい」との考えを示した。
 多良間村議会は前述のとおり厳しい質問が集中した。
 6市町村それぞれの思惑のなかで、合併議論はどこに進むのだろうか。

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